2018年3月15日、赤坂インターシティコンファレンスにて「IoT DAY 2018~デジタルトランスフォーメーションの実現へ~」が開催された。今年で5回目を迎えるIoT DAY 2018では、IoT・AI・ARなどの要素技術に取り組む各社のビジョンを通じ、デジタルトランスフォーメーションの実現に向けた取り組みの最前線を探った。
基調講演では、はこだて未来大学の松原仁先生をお迎えし、AIで実現する社会について語っていただいた。またセミナーの最後を飾るパネルディスカッションでは、「デジタルトランスフォーメーションに向けて何をするべきか」をテーマに、最前線で活躍する5名のキーパーソンが未来を語った。IoTへの期待と関心を示すように、多くの来場者で賑わったセミナーの様子をご紹介する。
日本システムウエア(株) ビジネスイノベーション事業部 事業部長 竹村 大助
最初のセミナーでは、このイベントを主催するNSWでIoTビジネスを率いる、ビジネスイノベーション事業部事業部長、竹村氏が登壇。NSWがIoTクラウドプラットフォーム Toami をリリースしてから5年が経過した今年の4月、IoTビジネスを推進する組織を新たに設立し、NSWとしてこれまで以上にIoTビジネスを推進していく意気込みを語った。
総務省の資料ではIoT・AI・ビッグデータは日本のGDPを大きく押し上げる力を持つとされ、2020年には33.1兆円、2030年には130兆円の経済効果が予想されている。竹村氏によれば、これまで企業の内部で効率化やコスト削減に寄与していたITだが、今後はIoTを鍵として企業の外でビジネスを創出していくと考えられている。
現在世界30か国以上の企業で活用されているToamiは、製造業やグローバルにビジネスを展開する約80社の企業に導入され、連携するパートナー企業は30社に拡大している。壇上では、グローバル企業でのテクニカルサポート、医療機器の遠隔監視、自動車部品工場をIoT化するインダストリー4.0など、様々な場所でのToami導入事例を紹介。またToamiとのパートナーシップとして、今回イベントで講演や展示を行った8社との具体的な取り組みにも触れた。
Toamiの新技術への対応としては、IoTとARを活用し、工場の機械設備のセンサーデータを可視化することでメンテナンスミスを無くす取り組みに加え、ARで内部の構造を確認することで機械の交換を容易にするなど、様々なものが検討されている。また3/14にリリースされたばかりの様々な映像・画像から特定のモノを認識する画像解析ソリューション「CityVision(シティビジョン)」や、Rapyuta Roboticsと共同で実証実験を行っているドローンの自動制御技術なども紹介された。
公立はこだて未来大学 副理事長 松原 仁 教授
基調講演では、公立はこだて未来大学副理事長、松原氏が登壇し、研究者の立場から人工知能の現在と未来について語った。松原氏によれば、現在の人口知能ブームは3回目となる。技術が社会に定着すればブームが終わることから、過去の2回は期待外れに終わったと考えられるが、3回目のいまはSiriや乗り換え案内、囲碁の「AlphaGO」やコンピュータ将棋など、一般の人達が実感できるかたちでAIが成果を挙げているという。
将棋を例にとると、コンピュータ同士の対局から学習するAIは、すでにプロ棋士も理解できないレベルに到達し、AIが人間を超える「ブラックボックス現象」が起きているという。話題の藤井聡太氏は、コンピュータ将棋とさし続けて強くなったAIネイティブ世代だ。彼らはAIに対してネガティブではなく、道具として使いこなしている。
大学で定置網漁業や交通配車システムにAIを活用する研究を進めている松原氏は、人間とAIの未来は役割分担になっていくのではと語る。これまで知性を持つ別な存在に迫られた経験を持たない人類は、本能的にAIに不気味さを感じるのかもしれない。AIが社会に実装されていくには、時間が必要だと締めくくった。
デロイト トーマツ コンサルティング(同) 藤岡 稔大氏
続くセミナーでは、デロイトトーマツコンサルティングSCMユニット執行役員、藤岡氏が壇上へ。企業の様々なデジタル変革(AI/IoT/SCプラットフォームなど)を支援する立場から、企業のデジタル変革を阻む課題と成功へのヒントを語った。
藤岡氏が率いるSCMユニットでは、大量のデータからインサイトを引き出す役割も担っている。マシンスペックによる制約があった過去と比べ、現在はより多くのデータを瞬時に分析することが可能になると同時に、ロボットやドローン、ARやウェアラブルといった出力デバイスが増えることで、企業は多くの選択肢を持つことが可能になった。このことは企業のデジタル化に大きな影響を与えているという。
セミナーではGEやコマツをはじめとした先進企業がデジタル化を活用し、新しいサービスの創出や顧客課題の解決に取り組み、成果を出している事例が紹介された。藤岡氏によれば、企業がデジタル化を推進する場合、まずデジタル化の定義が必要だと強調。その上で構造化・統合管理・活用といった三段階の流れを踏むべきだという。その一方で藤岡氏は、豊富な事例からデジタル化を停滞させる原因にも触れ、企業文化や組織間のコミュニケーションが課題となるケースについて語った。さらにデジタル化を成功させるヒントとして、実行と評価からのマネジメントやスモールスタートの有効性など、4つのポイントが紹介され会場の関心を集めていた。
パナソニック(株) 田中 重信氏
Toamiのユーザー事例として、パナソニックからコネクティッドソリューションズ社ビジネスコミュニケーションビジネスユニット主幹を務める田中氏が登壇。グローバル展開しているパナソニックのコミュニケーション機器(IPPBX)の顧客サポートにおいて、IoT導入により顧客満足度を上げる取り組みが紹介された。
田中氏によると、全世界70か国以上に展開しているIPPBXは、サポートにおける時差や距離、販売の階層など、様々な課題を抱えていた。日本から技術者が現地に出向いてもログファイルが無かったりエラーが再現しなかったりするケースがあり、ベンダー間で問題を指摘しあう「指差し合戦」も発生していた。そこで2017年の夏、IoTでこれらの課題を解決することを決意。田中氏はPBXの設計に変更を加えなくてよいスモールスタートとして、短期間で立ち上げが可能なToamiを選定した。
導入してまだ数か月だが、すでにベトナムのホーチミンやニュージーランドでは、顧客を訪問せずに監視と設定変更が可能になり、サポートの品質が向上した事例が紹介された。こうした手ごたえをもとに、田中氏は今後顧客やディーラーとシームレスにつながる、サービスハブの構築を視野に入れているという。
(株)安藤・間 宇津木 慎司氏
安藤・間からは、土木建設の現場での事例が紹介された。セミナーに登壇したのは、地質技術者でもある宇津木氏だ。ダムやトンネルなど、大きな建造物を造る際、地質技術者が現地に行って地質を評価するが、通常、建設現場に地質技術者が常駐することはない。地質技術者が現地に行かなくても、建設に欠かせない地質の評価を可能にしたいという発想から、IoTやAIの活用を検討したという。
セミナーでは「トンネル施工現場のICT管理システム」の概要や、トンネル添削の進捗に伴う地質を3次元的に俯瞰できる「トンネルCIM」が紹介された。こうした新しい取り組みは、現場とつながり見守ることができるだけでなく、自動評価による施工の最適化や省力化など、現場で様々なメリットを生み出したという。またNSWとの取り組みのひとつである、ダム基礎の岩盤の工学的特性を写真から自動的に評価する「地質状況AI自動評価システム」は、2016年に特許を出願し、現在は他岩種トンネルにおいて試験運用を開始している。またスペクトル強度撮影画像を活用した、地質・コンクリート盛土材料自動評価システムにも触れた。
宇津木氏によれば、こうしたICT技術を活用した情報化施工は、すでに現場で大きな成果を挙げているという。今後は新技術を活用した地質評価の高度化により、地質状況に応じた最適な建設現場の実現を目指していると締めくくった。
【モデレータ】
株式会社ウフル 専務執行役員 IoTイノベーションセンター所長 八子 知礼氏
【パネリスト】
株式会社セゾン情報システムズ 常務取締役 CTO テクノベーションセンター長 小野 和俊氏
ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 コネクテッドサービス事業室 室長 井田 亮太氏
デロイトトーマツコンサルティング合同会社 SCMユニット パートナー 藤岡 稔大氏
日本システムウエア株式会社 ビジネスイノベーション事業部 事業部長 竹村 大助
セミナーの最後は、デジタルトランスフォーメーションの最前線にいるキーパーソン5名によるパネルディスカッションが行われた。デジタルトランスフォーメーションとは何か、その課題、そして経営層は何をするべきかというテーマに基づき、熱い議論が交わされた。
議論のキーワードのひとつになったのは「体験」だ。小野氏は、デジタルトランスフォーメーション成功のヒントは、従来のウォーターフォール型ではない、体験から始めるプラクティスオーバーセオリーだと語った。早く動き小さく失敗することを積み重ねることで、デジタル化推進の力を生み出していくことが重要だという。
井田氏は、ものづくりとクラウドネイティブのITでは、企業のデジタルトランスフォーメーションのスピードに差が生じることに触れた。変化に時間がかかる企業では、経営層に果実を見せることが有効だ。成功への道筋につながる体験をさせることが、デジタルトランスフォーメーションのきっかけになると語った。
藤岡氏はコンサルティングの立場から、リスク評価のやりすぎがデジタルトランスフォーメーションを阻む点を強調。デジタルトランスフォーメーションを成功させるためには、だめならやめればいいというおおらかさや、肩の力を抜き試しながら進めていく風土の大切さについて語った。
竹村氏はSIerの視点から、デジタルトランスフォーメーションの領域の広さと、攻めのITが顧客のビジネスバリューを向上させることに触れた。少数の人間からイノベーションが起きるケースを通じて、まずやってみることが成功につながるケースを紹介した。
ディスカッションの最後には、司会の八子氏よりチャレンジの重要性が示された。八子氏によれば、トライしない、変化しない企業は負けだ。ぜひデジタルトランスフォーメーションへの新しいチャレンジで日本のIoT業界をリードしていってほしいというメッセージで締めくくられた。
2022年11月30日
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